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偽史編纂室「王位禅譲・教会創設」

 絶大な統率力と武力をもって、僅か十年で大陸を統一したロシュフォル皇子であったが、力による統一を進めて行く過程で、次第に力、そして暗黒道への興味を深めて行く。しかし、大陸一の賢者と聖地アヴァロンの女神官を傍らに置き、心を許せる友であるダルカスや年の離れた弟のようなグランが身近にいるうちは、その影は心の奥底にしまいこまれていた。

 それが顕在化するのは、統一が成った後、友はそれぞれの理由によって側を離れ、傍らにいるのは、まだ未熟なグランのみとなった頃。十年に渡る激戦と、荒廃し切った大陸を再び豊かにするための激務に追われた身体は疲弊し、子を宿す能力を失っていた。自らの実子を得る事で自分の分身となる物を得ようとしていたロシュフォルは、ラシュディが新王国のために残した若き賢者にそれを告げられ、酷く落胆する。その時思い出したのは、平定戦争の間に、ある教会で聞いた、絶大な魔力を持つという十二個の石『十二使徒の証』の話。それを使えば、自らの移し身となる子供を 得る事が出来るかもしれない。この時点で既に自らの存在自体への依存が深くなっているが、それと共に心の奥底にあった暗い影が頭を擡(もた)げて来ることになる。

 大陸の復興と『十二使徒の証』捜索のための一挙両得の手段として、ロシュフォル王は全土を政治や軍事ではなく心・宗教によって治める事を志す。教えの内容は、古くから大陸全土に伝わり、後に起こった数々の新興宗教の基ともなっている十二使徒の教えを基礎にする。『十二使徒の証』を捜すのにも都合が良い。ロシュフォル王は、新王国経営をまだ若いグランと幾人かの貴族に任せると、自らは聖地アヴァロンに渡り、島に戻っていた神官ラビアンと共に新教会の建設に着手。英雄二人による新たなる教会に、全土の教会組織は―積極消極の違いはかなりあるにしても―協力し、数年で全土に一応の統一宗教は広まる。

 しかし、それによって、目的が「力」を得る事のみとなったロシュフォルには闇の力が顕在化してきた。それに気付いたラビアンは、専門家でもある賢者ラシュディを呼び、ロシュフォルの説得を図る。ラビアン自身が信仰とロシュフォルへの想いに揺れていた事もあって、ロシュフォルに対して強く出る事ができなかったのだ。だが、その間も無く、ロシュフォルは自身の身体を闇に委ねると、更に強大な力を手に入れ、近くにいたラビアンを知らずに殺害。遅れて到着したラシュディは、元々、闇の力についての研究をしていた事もあって、ロシュフォルの闇を封印、排除する事に成功するが、ロシュフォルは、自らラビアンを殺してしまったショックと、身体が疲弊していた事もあって絶命する。以後、ラシュディは更に暗黒道の研究を深めて行くことになる。






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